森博嗣『朽ちる散る落ちる Rot off and Drop away』読了。Vシリーズ9作目。シリーズ全体構造のメタミステリも動いてきた予兆が随所に、それが森博嗣ミステリの真髄。
「新しいものを構築することに比較して、一度成り立ったものを再建することは、はるかに容易なのだ。それはつまり、ものを作るプロセスのほとんどが、何をどう作るべきなのかを考え、判断する作業に割かれるからである。しかも、その判断には、現状を正確に把握するための調査、測量が必要だ。そういったすべてが、同じものを再び作るときには省略できる」
「漫画やアニメのヒーローって、すべて現実にそのまま存在しているの。マスクを被って正体を隠し、一方的な正義を振り翳して悪を排除する。そして、自分の正当性を若い世代にアピールする。若者は、その正義にではなく、彼の力に憧れる。ただね、一つだけ違うのは、それを国家が、大勢の人間を使って組織的に行っている、という点。秘密基地や秘密兵器だってある。敵もちゃんと想定されている。まったく同じ。子供の遊びに似たことを、大勢の大人が真剣になってやっているのよ。エネルギィの大半が、それに消費されてきたのが人間の歴史」
「過去の歴史においても、力こそが正義だった。力がない者の権利が認められるようになったのは、単に、力がない者が団結しただけのことで、やっぱり、力を合わせなことには変わらない。正しい、というのは、そちらの方が強い、という意味に、限りなく近い。実際に殺し合いをする戦争も、話し合いによって少数意見をねじ伏せる議会も、結局は力の行使という点では違いは僅か」
「人間は誰でも、強くなりたい、そのために頭を使っている。まるで、科学が悪者みたいに言われることの方が、どうかしていると思う。文明が進歩して、はたして人間は本当に幸せになったのか、なんて言い方も、どうかしている。科学も、文明も、幸せを求めて模索してきた手段、そして結果ではありませんか。それでは、文字を読むためにライトをつけておいて、これが本当の明るさだろうか、暗いところで、苦労して文字を読むことに、人間らしさがあったのだ、と主張しているのと同じ」
瀬在丸紅子
